【第拾話】他人様にはどうでもいい話。設定変更

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1月の半ばを目前にして、俺が机に向かう時間は目に見えて増えていった。

俺の「本気」なんて、たかが知れている。意志は弱いし、放っておけば誘惑に負ける自信しかない。分かり切っている事だ。

だからそれを防ぐため、俺は生活スタイルを根底から変えた。

ホールが開いている時間はなるべく寝て、夜から明け方にかけて勉強する。物理的にパチスロを打てない時間軸へ、自分を強制的に放り込んだのだ。幸い、あの過酷な新聞配達で培った「狂った体内時計」が味方した。この「深夜フル稼働」のスタイルが、俺にはうまくハマったのだ。

カツカツと鉛筆の音だけが響く午前3時の部屋。俺のポンコツCPUは「勉強」という超高負荷プログラムに対し、凄まじい熱量でエネルギーを消費した。午前10時に勉強を終える頃には、容量不足でショート寸前。パチスロのことを考える余地さえない状態になると同時に、凄まじい眠気が襲ってくる。

だが、ここで寝てしまえば終わりだ。夕方に目が覚めれば、またホールのネオンに吸い寄せられてしまう。俺は無理やり、重い体を動かした。バイク屋へ転がり込んでダラダラ過ごし、冷たい風で意識を繋ぎ止めて夕方近くまで粘る。そして日が落ちる頃、泥のように眠る。

そんな「強制スロカット」のループが、ひと月ちょっと続いた。

そして、ついに運命のリールが回り出した。

ここまで一体自俺はどれ程のものを積み上げたのか?その手応えさえ掴めないまま、俺は受験教室に座っていた。手元の鉛筆は、1から4までの数字を書き込んだ「サイコロ仕様」にカスタム済みだ。足りない分は、運で補うしかない。試験開始のチャイムが鳴り響く。

「さあ、始めようか」

試験が始まると、俺はかつてないほど落ち着いていた。しかし、その落ち着きはすぐさま挙動不審に変換される。問題用紙のページを開くとそこには何を解答として求めているのかも分からない文章の羅列。

正直俺の落ち着きは3分もなかったと思う。

こんな時は神頼みに限る。

だって分からない事はどう考えても分からないんだ。

迷わず「サイコロ鉛筆」を転がす。

「コロコロっ……よし、2だ!」

そこにあるのは迷いではない。人事を尽くして「運」にすべてを託す、ギャンブラーとしての潔さだ!なんて自分に言い聞かせる。

確か5教科中の得点上位3教科での合否判定だった気がする、もしかしたら3教科中2教科だったか、、、

得意教科以外はそんな調子で試験を終了した。

もう、それからの事はあまり覚えていない。

試験後もなんとなく微妙な勉強を続けていたと思う。

受験問題の答え合わせなのか、そうしてないと自分を維持できなかったのか、はたまた、この勉強習慣を終わらせたくなかったのかもしれない。

​数日後。合格発表の日。

俺は再び、受験した大学の掲示板へと向かった。

1月の風は相変わらず冷たかったが、あの「残高3万円で絶望していた夜」にはちょっとだけ感謝した。自分が底辺まで落ちた自分がいたからこそ、たとえひと月でも真剣に向き合えた。そんな小さな小さな自尊心だ。

​掲示板の前に立つ。

​……あった。合格してた。

​その二文字を見た瞬間、

パチスロの負けも、新聞配達の凍える夜も、霧の中のバイクも。

すべての「もがき」が、この瞬間に収束し、このFラン大学の入試で報われた。

何はともあれ俺は、この時、初めて自分の手で人生の「設定」を書き換えることに成功したのだ。

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