【第拾七話】HANABI師。世界に向かって身銭を投げる。

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今、俺は近所のホールでスマスロ『HANABI』の前に座っている。投資1,000円でバケ2回、そしてたった今、3回目のビッグを引き当てたところだ。液晶のない、出目だけで「これでどうだ!」と語りかけてくるこの台のリーチ目は、いつ見ても合理的で美しい。

なんというか……

そう、納得感がある。

だが、リールを見つめながら俺は思い出していた。 かつての俺が、このリーチ目のような「合理性」とは真逆の、泥沼の狂気の中にいたことを。

あれは何年か前、ART機全盛の頃だったと思う。バイク関係の知り合いが、唐突に投資の自慢話を振ってきた。

「荒波君!今の時代、お金がお金を生むんだよ! コツコツ積み立ててさ……」

情弱な俺にとって、それは衝撃だった。

「そんなことできんの?」と。

今思えば、知人は着実な「インデックス投資」を勧めていたのだろう。

だが、ギャンブル依存症の俺の脳みそは、その「コツコツ貯める」という言葉を、自分にとって都合の良すぎる形に一瞬で変換してしまった。

そして俺が辿り着いたのは

「FX・外国為替証拠金取引」だ。

この時、俺の脳みそがバグを起こした原因は「FXのスワップ金利」という仕組みだった。これはポジションを持っているだけで、毎日毎日、チャリンチャリンと決まった時間に金利差により、お金が振り込まれる仕組みだ。(詳しくは調べてみてほしい)

友人の言う「コツコツ」を、俺は「何もしなくても毎日スワップでARTの純増分が手に入る、究極の後ろ盾」だと信じ込んだ。

このスワップポイントという「持ちメダル」が常に供給されるなら、大きく下がり続けない限りは多少のハマり(含み損)なんて怖くない。チャートが横ばいなら、決済しなければスワップポイントは増えていく。そうしてマイナスが反転して時に決済すればの益が膨らむ。 画面の中の数字の動きは、どんな液晶演出より刺激的で、俺をこう確信させた。

「……スワップポジション……これ、一生終わらないART(アシストリプレイタイム)じゃね?」

つまり俺は、FXを「毎日メダルが増え続ける、無限RT状態」だと完全に履き違えていたんだ。

 

ここで「投資」と聞いて、慎重になる人間もいるだろう。それは間違いなく正解だと思う。労働という血肉ささげ、生活の糧を得る。

だが、だがしかしだ。パチスロで言えば「設定6の据え置き確定台」を見つけたら打たずにはいられないでしょ?理屈よりも先に、俺のドMな好奇心がレバーを叩いた。FX口座速攻でつくり、「少額なら、損したって授業料、何事もやってみないと分からない」と自分に言い聞かせ、ボーナスの残りを全ツッパし、俺は世界という名のホールに入店した。

そしてFXでの取引は、俺の脳をさらに焼き始めた。

魅力なのは 基本土日以外は24時間営業で世界のホール(世界の通貨)が常に開いているし、電波の届く携帯さえあればいつでもどこでも入店できる無限の可能性。トイレだろうが風呂だろうが仕事中だろうがいつでも参戦可能。

そして実際の取引ではスマホの画面の中で、1秒ごとに数字が踊る。その数字の裏側に、何億人の思惑と国家の野望と命運が見え隠れする。

「HANABI」で1日中粘って打ってやっとこひねり出す数千枚のメダル。その「重み」を、FXはわずか数分で、たった数クリックで軽々と超えていく。

その取引の中で感じる「ああ、多分、俺は今、世界と一体になっている。」そんな恐ろしくも心地よい全能感をもたらす。

だが、その快楽の裏側に、俺を戸惑わせる強烈な違和感があった。

パチスロは、レバーを叩いた瞬間に答えは決まっている。「役を引いたか、引いていないか。」俺はただその「正解」をリールの上に導き出すだけだ。

だが、FXは違う。

「これ、いつリールを止めればいいんだ(いつ決済すればいいんだ)?」

「コツコツ貯まるART」のはずなのに、引いたフラグをいつ確定させるか、その出口の決断すべてが俺の指一本に委ねられている。 スロットのように「何を引いたか」ではなく、「どこで終わらせるか」という、吐き気がするような自由。数秒でマイナスがプラスにかわり、またマイナスに落ちていく・・・。

小さなプラスを積み重ね、大きなマイナスを泣く泣く決済

そしてたまに大きくプラスを決済。


FXをやり始めた時、俺はビビりだったせいもあり、細かく決済を繰り返し、小さなプラスを集めるようなトレードをしていた。おかげで多くは負けず、割と小銭が稼げた。


「ちくしょう……こんな面白いもん、誰が作ったんだよ。」

少し慣れてきた時も、このスワップポイントという「持ちメダル」があるから、多少のハマり(含み損)なんて怖くない。むしろ、ハマればハマるほど、次に大きく跳ね返った時の決済にスワップの利益が膨らむだけだ。 そう思わせるほど、画面の中の数字の動きは、どんな液晶演出より刺激的だった。

仕事中、ふとスマホを覗く。 昨夜より少し円安に振れている。それだけで、俺の時給が数倍になったような錯覚に陥る。 「ああ、俺がこうして汗を流して働いている間も、世界という巨大な筐体は俺のためにメダルを吐き出し続けているんだ!!」

24時間、どこかで誰かが「レバー」を叩き、重要人物(FRBの議長発言や、首脳陣の発言)や世界の出来事(某国の軍事演習など)が為替市場に強烈な「カットイン」を飛ばしてくる。特に毎月の「雇用統計」なんで為替が乱高下する特化ゾーンだ。

それはもはや投資なんていう退屈な言葉じゃ収まらない。

自分の財布を世界に直結させて、地球の裏側の出来事を自分の脳汁に変える。

「この面白さを知らずにいるのはもったいない!!」

本気でそう思っていたのだ。

だが、その「面白すぎる仕組み」の裏には、パチスロにはない絶望を含んでいた。

世間が「1円、円安に振れた」などニュースキャスターが涼しい顔をしてその日の為替を配信する。この世界に興味がない人は「ふーん・・・で何?」となるわけだが、FXのプレーヤーは心臓が飛び出そうになる。レバレッジの効いた為替にとって1円の変動は1ロットに対し1万円の変動になる。10ロットなら10万円・・・新興国通貨などは40万円くらいで100ロットくらい買えるのでどんだけ大きい値動きなのかは想像できると思う。(DMM FXの場合)

例えば、1ドルが120円が121円になる。 その「1」という数字の書き換えが、俺の口座から万札を吸い込み、心臓をスキップさせる。

1円の向こう側にそびえるのは、設定6の完走か、あるいは一瞬のパンクか。

「1円の変動」とは、いとも簡単に俺たちの日常を破壊する。だが、そうやって自分の財布を世界に直結させたことで、俺の視界は一変した。 これこそが「身銭を投げた者の特権」だと思う。

結局、勝っても負けても、俺は「世界の当事者」になった。

なけなしの金を世界という渦に放り投げた瞬間、初めて世界のニュースが俺を殺しに来る凶器に変わった。 ニュースや情勢といった情報の解像度が変わり、俺は「HANABI」の筐体の前だけが俺の居場所じゃないことを知った。


もしあなたが、今の日常に物足りなさを感じている「重度の勝負師」なら。 この24時間営業の戦場(DMM FX)を一度覗いてみて。日常が溶けていくハラハラ感は、どんな爆裂機でも味わえない。

ただし、二度とこっち側(平和な日常)に戻ってこれなくなっても、恨まないでね。

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