【第拾八話】常夏のタイで凍る。プーケットの夜明け

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あの日はタイにいたんだ。 年末年始、大抵は無計画な旅行を「w荒波」とするのが恒例になっていた。 その年は約一週間、タイのプーケットに降り立ち、レンタルバイクで島を巡る旅。バックパックにTシャツと短パンを詰め込み、行きたい場所へ行き、その先で安宿を見つける。屋台で飯を食い、飲み散らかして寝る。そんな旅だ。

お金は思うよりかからない。

レンタルバイクという自由な乗り物、安い物価。

街中をいくら走り回っても、かかるのはガソリン代だけ。何より、夏が好きな俺たちにとって、タイの気候は最高に過ごしやすい。最高だ。

あ、話がズレた。

そう、飲んだくれてたんだよ、

あの日も。

年明けすぐ、プーケットの安宿。 シンハービールの空き缶を半ダースほど潰し、わけの分からないチップスを食い散らかして寝落ちした。

翌朝、まとわりつく暑さと、騒々しい通りの騒音で目が覚める。悪くない目覚めだ。

時計代わりに携帯を覗く。

通知がある。

DMM FXからだ。 その瞬間、言い知れぬ予感が背筋を走った。 アプリを開くと、そこに並んでいたのは「ロスカット」の文字。

当時、俺はランド円――南アフリカの通貨で「買い」ポジションを乱立させていた。 深夜か、あるいは夜明けか。チャートを遡ると、そこにはフラッシュクラッシュ、だださがるチャートのロウソク。文字通りの「急落」が刻まれていた。

この瞬間、さっきまで感じていたタイのしつこい湿度が、一気に冷気へと変わる。身体が動かなくなった。

あせりつつ残高を確認すると、約3分の1になっていた。 二桁万円の金が、一夜にして、俺が寝ている間に消えた。 それまではなだらかなマイナスチャートだったが、スワップ金利が良かったからあまり気にしていなかった。


「なだらかなマイナス」をスワップで相殺しているつもりで油断していたのだ。


なんせ、俺は今タイを満喫しているんだからなおさらだ。

俺は携帯を投げつけ、ベットに沈む携帯を横に、拳を握りしめてうなだれた。

だが、すぐに我に返る。

「あっヤバイ、、、」もし携帯を壊したらタイでは終わる。海外で携帯は生命線だ。

冷静になり、俺は残された残高で、再び「買い」のポジションを作った。 これは考えなんてない。反射的な行動だった。つまり一切のヤケクソだ。

俺みたいな人間は、中途半端に残高を残すと遺恨も残す。身らば共々ってやつだ。

「なんで日本人の俺がタイまで来て、行ったこともない南アフリカの通貨の下落で、プーケットのベットでうなだれてるんだよ!」

悔しさと、悲しさと、怒りと、自分の馬鹿さと、「やったれ感」。それらがぐちゃぐちゃに混ざり合った感情を抱え、震える足取りで「w荒波」と朝飯を食いにバイクに跨った。

タイの朝の風が、こんなに冷たく感じるとは、、、

「w荒波」のテールランプを見つめつつ、呆然と走る。周りには朝から水着で、ビール片手にワチャワチャしてる外国人たち。

「あー、なんでこんなトコまで来て、こんな思いをしてるんだろ。」 あまりに馬鹿げていて、少し笑えた。

悔しくない訳じゃない。 けど、こうなる可能性は分かっていたはずだ。 自己責任ってやつだこれを人のせいにしたら、俺じゃない。

「ここで飯を食うか?」 w荒波の声が、どこか遠くで聞こえた。

(続く!)

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