【第伍話】昭和生まれのCPUが弾き出した「勝率2割の永久機関」とアホへの加速。

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高校を卒業して、新聞配達の給料は8万円に上がっていた。

18歳の実家暮らしのガキにとって、これはなかなかの大金だ。バイクの維持費(ガソリン、タイヤ、オイル、保険など)とちょっとした必要経費を振り分け、余った金が大体月4万くらい。これが自分が使える投資資金になった。

一人でホールへ行くのは、少し抵抗があった。

大人の巣窟に場違いな小僧が紛れ込むような落ち着かなさ。なんとなく絡まれそうな当時の雰囲気。いつも店員とワチャワチャしているコワモテの方々。この人たちは一体何のしごとしてるんだ??なんて思っていた。

しかし、その不安を消し去ってくれたのは、意外にも身近な連中だった。 いつものホールに行けば、たいていは誰かしら「朝3時のメンバー」がいる。その見慣れた顔があるだけで、そこは俺にとっての「戦場」ではなく、安心できる「居場所」に変わっていった。

新聞販売所には、本当に優秀なスロカスたちがゴロゴロいたのだ。 俺にとって、小・中・高の先生方より何倍も親切で丁寧に教えてくれる「スロット・・・いや、人生を生き抜く為の師匠」だった。

まだ街が眠っている午前3時、新聞を積み込みながら始まる実践に基づくスロット講座、しかも前日のマイ・ホールのホール状況まで事細かく解説してくれる徹底ぶりだった。

その他にも、「いいか荒波、この出目が出たらアツいんだぞ!」「滑りは4コマだ!!」 「あの店のあの角台は、月曜は鉄板だ!朝に行け!」「深追いはするな!!プラスならいいんだよ!」etc・・・

彼らが教えてくれる「リーチ目」「リールの法則」「台選びのコツ」、「スロットに向き合うための心得」まで、、、その当時の俺はスルスルと自身のCPUにインプットしていった・・・いや、されていった。

予備校? たまには行ってたよ。

ただし、授業を受けるためじゃない。親へのアリバイ作りのために、新しい大学案内の資料やテキスト、問題集を回収しに行くだけの作業だ。 重たい問題集をカバンに詰め込むと、なんだか自分が「ちゃんとした受験生」であるかのような錯覚に陥る。これが一番タチの悪いバグだったかもしれない。

ある日の予備校の昼休み。周りのマジメな受験生がパンをかじりながら英単語帳を広げている間、俺は繁華街(予備校のすぐ近く)にあったホールに向かった。

二階建ての当時珍しかったスロット専門店で、1階ははぼジャグラーだった。繁華街で出入りが多く、ハイエナ狙いで隙間時間に打つのにちょうどよかった。 カバンの中には、さっきもらったばかりの問題集。そして財布には、その日の昼飯代と電車賃と少しの5000円。

「……よし、空き時間でちょっと『投資』してくるか!」

「てか、2,000円で光らせれば、あとは全部利益じゃん」

その日の結果は、投資2000円でサクッと1万円の勝ち。しっかり昼休みの1時間。 時給換算すれば、配達がバカらしくなるほどの超超高効率。こんなことが2回、3回と続けば、昭和生まれのCPUは「自分は天才だ」と完全にバグった学習を完了させる。


その演算方式はこうだ

演算結果:永久機関の構築】

  1. 投資2000円で、+10000円の利益。
  2. その10000円をさらに投資に回せば、2000円の勝負が「5回」できる。
  3. つまり、5回に1回(勝率2割)勝てば、理論上は永遠に打ち続けられる!

なんとも優秀なCPUだ。期待値や確率の偏りも、負けが込む恐怖も、一切計算に入っていない。


しかも、当時の俺はまだ投資額が少なかったこともあって、たとえ負けたとしても大きなマイナスを食らうこともなかった。それが余計に俺を調子づかせた。今思えばここまでが俺のビギナーズラックだったのかもしれない。


永久機関の演算・・・意外にもこれは、パチスロの本質的な「真理」を突いていたのかもしれない。

「期待値を積み上げる」という意味では、俺のポンコツCPUは正解に肉薄していた気がする。ただ、当時の俺はまだ知らなかった。機械の故障と同じで、どんなに完璧な理論(設計図)も、たった一度の想定外で簡単に燃え尽きてしまうということを。

ああ、当時の俺を捕まえて言ってやりたい。 「その計算、1ミリも合ってないけど……お前のその無敵感だけは、ちょっと羨ましいよ」ってな。


 

 

地元の店で師匠たちと打つのもいいが、繁華街で「予備校生」の仮面を被って打つのもまた、刺激があって楽しかった。

「俺はあいつらとは違う。勉強もしてるし(資料は持ってる)、効率よく投資もこなしてる」

そうやって昭和生まれのCPUは、エラーコードを「正常」だと書き換え続け、俺の人生は確実に、「アホ」へと向かって加速していく。

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