【第四話】昭和生まれのCPUがはじき出す勘違いな「人生の投資」

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今の俺は整備士をしている。昔はバイク屋にも勤めていた。

今はまたちょっと特殊な車両を扱ったりする整備士だ、もう20年以上この業界にいる。

毎日毎日、油まみれで破損した機械や車両、またそれらの起こす不具合と格闘してる。最近の車両はセンサーが多用されているものが多く、電気系のトラブルも多い。どちらかというと苦手な部類の修理だ。

電気系統のセンサーのどの不具合でパネル警告灯がピカッと光れば、「クソ!!エラーログ吐いてんなぁー」と毒づきながら回路を追い、電圧を測り、基準値から外れた異常ヵ所を特定する。 そうやって「目に見えない不具合」を認識し裏付けて、修理交換し正常な状態に戻す。

……のはずなんだけど。

情けないことに、俺の意思決定を中枢を司る「昭和生まれのCPU」は、いまだにバグを起こす。

作業中、視界の端っこでメーターの警告灯が光った瞬間、「お、ペカった」と脳が勝手に誤認しやがるのだ。 エラー信号は「マシンの故障」だって分かってんのに、俺の古いCPUの中では、ほい来たボーナス確定」という20数年前に上書きされたバグ・プログラムが爆速で走り出す。 我ながら、マジで救いようのない「整備不良」な脳みそしてると思うわ。

このバグの原因は、間違いなく、あのU君に連れて行かれた、スロットでの成功体験にある。

あの日、俺は気づいちゃったんだ。 「一ヶ月間毎朝3時に起き、新聞配達で6万だ、8万だと稼ぐより、座ってレバー叩いて光らせるほうが、圧倒的に『効率のいい稼ぎ方』じゃね?」っていう、どうしょうもないクソみたいな勘違いを。

当時、親に頭下げて通わせてもらった予備校は1週間たたないで行くのやめたしまった。

大学受験の勉強なんて、焼かれた俺の昭和産のCPUからすれば「最悪のコスパとタイパの作業」程度にしか見えなくなっていった。

バグった昭和のCPUがとった行動は、参考書を「パチスロ必勝ガイド」に持ち替え、予備校の硬い木の椅子からホールのベロア素材の真っ赤な椅子へとアップデートしたのだ。

当時のパチスロ専門誌にある記事には『朝一投資:2000円で~』なんて言葉が並ぶ。当時の俺は、その『投資』っていう二文字を、何かこう、もっと理知的で、自分の未来をショートカットするための「インテリな戦略」みたいに解釈しちゃったんだ。

今思えば、ただ単に「金を突っ込んだ」ってだけの報告なんだけど。


純粋な心は時には自滅するんだよ。


「これはギャンブルじゃねぇ。投資なんだ!!解析値を読み解いて、期待値を積む……俺は今、人生の『投資』をしてるんだ!!」

バカだよね。

マジで救いようがない。 でも当時は本気だった。

一軒一軒、重い新聞を配って数十円を積み上げる「肉体労働」よりも、テスターで回路を追うみたいに『必勝ガイド』の数値を暗記してレバーを叩く方が、よっぽど楽で簡単でなんだか「時代に適合した効率的な生き方」だと思い込んでた。

内心は「俺は『投資』をしに来たんだ。」なんてスカしたツラして、地獄への片道切符とも知らずにタバコくさく、よどんだ空気でぼやけたホールの自動ドアを潜った。


当時、英単語を覚えるより、リーチ目を覚える方が、人生をショートカットできるって信じて疑わなかった。笑えるだろ? でも、あの時の俺は、誰よりも自分の可能性を信じてたんだ。……間違った方向に、全力で。


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